第5 検察官立証を把握する 争点・証拠構造・組立ての把握
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1 争点の把握
(1)意義
何が争点になっているか,からすべてが始まる。
争点でないところについて弾劾しても仕方ない。
(2)やり方
ア 公訴事実を把握する
起訴状を見る。
イ 被告人の主張を把握する
罪状認否,最終陳述,被告人質問を見る。
ウ 把握した争点の活用
絶対に争点を忘れない。
忘れないように,大きくメモしておくとよい。
2 証拠構造の把握
(1)基礎理論
刑裁でも,検察でも,証拠構造をつかみましょう,という話が出てくる。しかし,両者は,似て非なるものである。例えば,犯人と被告人(被疑者)との同一性が争点のとき,間接事実①~③と,直接証拠④がある事例を考えてみる。
刑裁では,直接証拠④があるから,証拠構造は直接証拠型。その他の間接事実は,直接証拠の信用性を判断する補強証拠という位置づけである。一方,検察では,間接事実①~③,直接証拠④をこの順番で検討するべきとされ,証拠の動かしがたさの順序をもって証拠構造と呼んでいるようである。
同じ刑事系科目であるにもかかわらず,このような違いが生じるのは,両起案の手続段階が異なるため。
検察起案は,終局処分時点での起案である。検察起案段階では,その後に引き続く公判手続きにおいて,証拠が変遷する可能性があるため,証拠の固さが重要になる。
一方,刑裁起案は,公判審理を終えた判決段階の起案である。刑裁起案では,既に公判審理を終えて証拠関係は固まっているため,証拠の固さよりもむしろ強さが重要であるし,直接証拠があるなら,端的にその信用性を判断すれば足りる。
このように,刑裁と検察で証拠構造の意味が異なるのは,それぞれの起案が想定している手続段階が異なることによる。
刑弁起案で起案するのは,「弁論要旨」である。弁論は,公判の証拠調べがすべて終了した段階で行われるから,証拠関係については,刑裁と同じである。刑弁の手続段階は,検察よりも,刑裁と共通する。
したがって,刑弁にいう立証構造とは,基本的には,刑裁と同じ意味の立証構造と考えればよい。
もっとも,刑弁起案の場合は,そんなに厳密ではないので,あくまで目安程度に。
ウ 自白の有無も大切
刑弁起案で意味を持つもうひとつの証拠構造は,自白があるかないか,である。
捜査段階の自白があれば,それに対処する必要があるので,これも証拠構造として把握しておくとやりやすい。
(2)要するに
ア 二つの分類基準
code:分類基準
ⅰ 直接証拠型vs間接事実型。
ⅱ 自白(捜査段階)がある場合vsない場合。
イ 4パターン
code:パターン
(ⅰ) 直接証拠型・自白あり
(ⅱ) 直接証拠型・自白なし
(ⅲ) 間接事実型・自白あり
(ⅳ) 間接事実型・自白なし
3 組立ての把握
(1)基本的な考え方
組立てとは,争点について,証拠構造を前提に,検察官がどのような立証を組み立てているのか,ということ。 刑事訴訟における認定は証拠に基づくことが必須なので,検察官は,具体的な証拠からスタートして,証拠から事実の認定,事実から別の事実の推認などのプロセスを経ることで,争点についての合理的な疑いを超える証明まで到達すると考えているはず。
なので,検察官の立証には,証拠①から事実①が認められ,証拠②から事実②が認められ,事実①と事実②から事実③が認められ,事実③から推認すれば事実④が認められ,……,というような組立てがあるはず。
要するに,検察官の頭の中には,構造的な立証の絵が描かれているはず。その構造的な絵が,ここで言う組立てのこと。
証拠・事実同士の関係を見抜いていけば,検察官立証の組立てを把握することができる。結論にとって柱となる証拠・事実は何か,その証拠・事実の裏付けとなる証拠・事実は何か,というように,結論から下っていけば,比較的明らかになりやすい。
(2)類型的思考の力
ア 手っ取り早い把握
組立てを把握するためには,基本的には,記録全体を読まなければならない。
しかし,多少邪道な方法として,類型的な思考を活用するという手段がある。
すなわち,争点と証拠構造から,ある程度検察官立証の方針は限定される。そこで,争点と証拠構造を把握した段階で,ぱっと類型を判断して,そこから組立てを予想することが可能になる。
イ 争点・証拠構造・組立ての関係
争点を前提にして,証拠構造がある。
争点と証拠構造を前提にして,検察官立証の組立てがある。
検察官立証の組立ては,争点と証拠構造を前提とするものだから,争点と証拠構造の枠組みの中のものである。
争点と証拠構造が決まっていれば,検察官立証のパターンも,そんなに多様ではない。
ウ 争点・証拠構造は限られている
(ア)争点は限られている
加えて,刑弁「弁論要旨」起案で出題される争点は,ある程度限定されている。
刑弁「弁論要旨」起案は,オーソドックスな争点について,事案に基づく検討を求めることを旨とするものだからである。
code:争点
○ 犯人と被告人の同一性
○ 犯罪の成否
・殺意
・共謀
・正当防衛
(イ)証拠構造は限られている。
また,証拠構造も限られている。二つの軸での分類,4パターンである。
code:証拠構造
ⅰ直接証拠型vs間接事実型。
ⅱ自白(捜査段階)がある場合vsない場合。
(ⅰ) 直接証拠型・自白あり
(ⅱ) 直接証拠型・自白なし
(ⅲ) 間接事実型・自白あり
(ⅳ) 間接事実型・自白なし
そうなると,刑弁起案の検察官立証の組立てパターンも,そうたくさんあるわけではない。